ゲームの事を書くと偉い人に怒られるので、普段はあまり書かないのだが、ふと気付いたらゼノサーガEPI発売から15周年だったので、当時の事を色々思い出して書いてみる事にする。
ゼノサーガEPIは、モノリスソフト開発ナムコ販売、2002年2月28日発売のPS2用SF RPGだ。
一般的にはムービーゲーと評され、そのムービー収録時間はなんと7時間を超える。およそ映画3本分くらいの長さだ。
あまりにもムービーだらけで、当初予定のDVD2枚組では容量が足りずに、2層ディスクに変更したほどだ(PS2初の2層ディスクだったような?)
発売から15年経った今見ても、そのムービークオリティは凄まじい物があり、演出、エフェクト、カメラワーク、シーンに合わせたサウンド、独特の台詞回し、声優の演技等、そんじょそこらのアニメや映画よりよっぽど面白い(EP1だけだと伏線張りまくりストーリーが完結してないのが難点だが)
元開発スタッフのポジショントークのように聞こえるかもしれないが、私は単にプログラムをちょこっと担当しただけなので、世間で絶賛されているムービーシーンには、ほぼ開発参加していない。
単に一ゲームユーザーとして、心底ゼノサーガのムービーは凄いと思っている。
正直言って開発中は色々な問題があったため、「これほんとに完成するの?」というくらいヤバイ状態だった。
何しろテストプレイしようにも、発売まで残り数ヶ月という時期に、バトルからCFに戻ってくるだけでフリーズ&フリーズ直してもモデルやモーションが壊れてたり、エフェクトが全部消えちゃってたりと問題は山積み。
戦闘BGMは、いつまで経っても仮で入れたと思われる、メタルホークのBGMが流れていたのを今でも覚えている。
ロードが遅いと揶揄されるゲームだが、開発中はもはやロード時間とか気にしている場合ではなく、ゲームとして動作すればラッキーというくらいの代物だった。
私を含めて「RPG制作初めて」というスタッフが多かったが、それ以上に「ゲーム開発が初めて」という新人スタッフも多かったため、ひとまずゲーム用のデータ作成方法を教えるために、ひたすら奔走していた気がする。
デザイナーなんか、単一でPS2のCPU&GPUを100%フルに使った爆発エフェクトなんかを作るもんだから、当然ゲーム内で複数爆発させると処理落ちしまくり。
「ゲーム内で同時に何個も爆発するから、一個のエフェクトでは10%くらいしかパワー使っちゃだめ!」とか説明して直させたりした。
他にも「フラグとは何か」から、「アイテムや宝箱の番号管理」、「ローカル座標とグローバル座標の違い」等、基本的な事を一々教えてた。
今思うと、ゲーム規模の割にはあまりにも力不足な開発体制だったが、あの時の新人スタッフが、その後ゼノブレ等の名作を作っている現状を考えると、潜在能力は高かったのだろう。
そんな感じだったので、なかなか開発は進まず、スケジュールは遅れに遅れ、週末休みも盆休みも正月休みも無しで開発する羽目になった。
長いことゲーム開発をやっているが、盆も正月も休み無しで開発してたのは、このゼノサーガだけである。それくらいスケジュールは逼迫していた。
当然そんな状態だったので親会社のナムコに呆れられ、ある日エレベータ内でナムコスタッフが「2年かけてあれじゃあねぇ…」等と、ひそひそ話していたと聞いた時は、やるせない気持ちになった。
だが開発末期のラストスパートは、丸で小学生が夏休みの宿題をギリギリで仕上げるかの如く、凄まじい勢いで進んでいった。
開発末期はナムコスタッフも応援に加わっていた。
なんとかゲームとしての体裁を整え、全編通しプレイが出来るようになった頃、初めて通しプレイをしたのだが、あんなバグだらけで動かなかったゲームが、短期間の間にハイクオリティなムービーゲーに変貌していて驚いた。
最初は試しに通しで遊んでみるか程度でプレイし始めたのに、結局終電間際までプレイしてエンディングまで迎えているというくらい面白かった。ムービーゲーだったけど。
開発末期はムービーゲーという事もあって、もうゲーム本編側で私のプログラマとしての仕事はあまり無く、最後の方は開発が火の車だったミニゲーム(TCG=トレーディングカードゲーム)をひたすら手伝っていた。
ミニゲーム関連は、開発がポシャった時に、いつでもミニゲーム丸ごと切り捨てられるように、ゲーム本編と関連性が極力抑えられていて、全くミニゲームを遊ばなくてもゲーム本編クリア可能という代物であった(今考えると酷い冷遇っぷりだ…)
RPGゲーム内のミニゲームというマイナーな存在のためか、ネットを探してもあまりプレイ動画が見つからなかった。
TCGガチ勢がスタッフに結構いたので、アルバイトから取締役まで、みんなでテストプレイして、デッキ作ったりカードバランス調整を行っていた。ガチ勢だけに皆本気プレイだった。
勿論ガチ勢だけでなく、全くTCGを知らないスタッフにも遊んでもらって、わかりにくいルールや納得行かない所等を、時間の許す限り改善していった。
ゲーム本編と同じく、マスターアップ直前でいきなり完成度が上がったので、マスターアップ後の特許ミーティングの時、ナムコ側の人から「最後にいきなり完成度の高いミニゲームが入ってきて驚いた」と褒められて嬉しかった(その時出願が決まった特許はこちら)
残念ながらゼノサーガEPIは、国内での販売本数が45万本程度と、当初の目標100万本には遠く及ばなかったため、ナムコ側の期待に応える事はできなかった…と思っていた。
最近知ったのだが、国内ではそれほど結果を残せなかったEP1だが、海外では結構売れたようで、全世界での売上総数はなんと174万本にもなるそうな。
これはナムコRPG代表作、テイルズオブシンフォニアの全世界売上110万本より多いし、ゼノサーガの前身、スクウェアのゼノギアス全世界売上146万本より多い。
結果だけを見れば、ゼノサーガEPIは、世界的には大成功を収めた事になるのだが、海外版の発売が遅かったため、結果が出るのが遅すぎた。
その後、エピソードIIの悲劇が起こるわけだが、ネット各所で暴露されている話が大体合っているため、ここに書く事は特に無い。
私がモノリスソフトを離れた後の話だが、今から何年か前に、とある会社にお邪魔した時の事。
その会社はNintendo DSのSF RPGを作っていたのだが、社内にゼノサーガの設定資料集が大量に置かれていてちょっと懐かしく思った。
開発スタッフと話したら、ゼノサーガのSF設定を、開発の参考にしているとの事。いつのまにかゼノサーガはSFゲーム開発者にとって、参考にする作品=お手本になっていた。
そんなゼノサーガだが、2017年現在ゲームアーカイブ等で配信されていないため、今からプレイしようと思っても、なかなかプレイするのが困難だ。
現存するPS2本体の動作稼働率や、ディスクメディアの経年劣化を考えると、近い将来プレイ方法は断たれてしまうだろう。
バンナム原田P「ゼノサーガHDコレクションを望んでいる人へ」
このゼノサーガというIPを、このまま終わらせてしまうのはかなり勿体無い気がするのだが、どうやら収益化は厳しいようだ。
PS4用のPS2エミュによるHD化が最近流行っているので、出そうと思えば出せそうだが…ムービーはHD化できないからダメか?
せめてなんらかの形で、プレイできるように後世に残して欲しい。